Nonomura Lab
生体組織は「力を感じて」機能する
メカノセンシング生理学分野とは
京都大学・医生物学研究所の野々村恵子教授が主宰する
2024年に発足した研究室です。
これまでに私達の研究グループは,
メカノセンサーチャネル「PIEZO」に着目し,
肺の体積制御やリンパ管の弁形成など,
生体組織が「力」を感じて機能する
メカニズムの一端を明らかにしてきました。
現在では脳などさまざまな臓器での
メカノセンシングの生理的な役割だけでなく,
病態における寄与についても研究を展開しています。
募集中!
当研究室には,京都大学 生命科学研究科 高次生命科学専攻の修士課程・博士課程大学院生として参加できます。
熱意とやる気のある方であれば,出身学部などバックグラウンドは問いません。
(大学院の研究室紹介ページはこちら)
※大学院 生命科学研究科の入試にはTOEIC,TOEFLなどの事前スコア取得が必須です(入試説明会についてはこちら)
技術補佐員や博士研究員(ポスドク)も随時募集中です!
ご興味のある方はまずはお問い合わせください。
「力を感じる」とは?
● 「てざわり」の不思議
あなたの手がなにかに触れたとき,目をつぶっていてもその物体の形や重さ,表面がスベスベかどうか,などがわかるはずです。
でも,なぜこのような「てざわり」を感じられるのか,あらためて考えてみると不思議ではないでしょうか。
● 触覚の分子実体
この感覚は皮膚触覚と呼ばれます。ものに触れたとき,皮膚がわずかに変形します。それによって,皮膚の下にある感覚神経が活性化し,その情報が脳に伝わり,「てざわり」となるのですが…。
なんだかとても大事な部分が抜けているような気がしませんか?
感覚神経はどのようにして皮膚が変形したことを知るのでしょうか?じつは最近まで,触覚を担う分子実体は不明でした。
この問いにずばり答えたのがアーデム・パタプティアン博士らの研究グループです。その正体は,細胞膜貫通領域を38個持つ巨大なタンパク質であることがわかり,パタプティアン博士はこれをPIEZO(ピエゾ)と名付けました。
ちなみに”piezo“とは「圧力」を意味するギリシャ語が語源になっています。
PIEZOは上からみると扇風機のような形をしていて,3枚の大きな羽の真ん中にイオンが通過するチャネルの穴があります。そしてこの大きな羽の部分が細胞膜に埋まっていることで,細胞膜上の力の変化に応答してチャネルが開くと考えられています(この仮説を証明するため,研究は今も続いています!)。
PIEZOの発見,なにがすごい?
しかし,PIEZOが発見される以前にも,メカノセンサーチャネルはいくつか見つかっていましたし,メカノバイオロジーの歴史はけっして浅くありません。では,なぜPIEZOの発見は,大きなインパクトを科学に与えたのでしょうか(2021年ノーベル賞を受賞)。
まず大きな理由として,遺伝子からコードされた1つのタンパク質が,アナログ情報をデジタル情報に変換するという,その特異な機能が挙げられます。そして,それがわたしたちヒトを含む哺乳類の細胞から発見されていて,皮膚触覚の本体であったという事実も,重要なポイントです。
● PIEZOがないとどうなる?
このことは,マウスを使った遺伝学でも確かめられています。例えば,マウスの背中に紙テープを貼ると気になるのか,しきりに後ろをみて剥がそうとするのですが,感覚神経の一部でだけPIEZO2遺伝子を欠損させたマウスでは,背中の紙テープに反応しません。
さらに,PIEZO2がうまく機能しない遺伝子変異をもつ人たちには触覚がなく,自分の手足がどこにあるかという感覚(固有感覚)もないことが報告されています。
● PIEZO,ありがとう!と言いたくなる
五感のひとつである触覚の本体として,一躍脚光を浴びたPIEZOですが,話はそれだけに留まりませんでした。
PIEZO (PIEZO1・PIEZO2)は,体内のさまざまな臓器に存在することがわかり,それらがどのような機能をもっているのかに興味をもった,さまざまなバックグラウンドをもつ多くの研究者がPIEZO研究に参入しはじめたのです。
その結果,肺が膨らみすぎていないか(呼吸調節),血圧が高くなりすぎていないか(血圧制御),膀胱が膨らみすぎていないか(尿意)など,生きていくうえで非常に重要な情報を感知するセンサーとしての機能が明らかになってきました。
PIEZOが身体のすみずみまで配備されているおかげで,個性豊かな細胞たちが合わさってできた多細胞生物が,崩壊することなく「個」として機能できている─ひらたくいえば,「わたしたちの身体は,よくできているなあ」と実感します。
いまもなお,PIEZOの研究はどんどん発展しているだけでなく,あらたなメカノセンサーチャネルの発見・機能解明など,拡張もつづけています。
● 感動を共有するために
最後にすこしだけ,仕事面について,お話しようとおもいます。当研究室でも,メカノセンシングが,体内のさまざまなシチュエーションで,人知れず重要な役割を担っていることが明らかになってきています。知れば知るほど,感動は尽きることなく,メカノセンシングの探求は止まらない・止められない,という状況です。
一方で,当研究室では,学生や,時短勤務の方,私を含め育児している方など,さまざまな働き方で研究をすすめています。そのなかで,一人ひとりが,その人なりに研究に心動かされ,かつ,その感動をみんなで共有できることを目指しています。
そのために必要だと考えているのが「共通言語」です。つまり,scientific writingと呼ばれるような記述,論理構成をもって話すことができて初めて,研究の感動を分かち合えるとおもっています。このスキルは,就職活動にも活きるだろうし,自分を他者化できるので「自分が何者か」を知るための強力なツールだと考えています。こうしたことをつうじて,「成熟した市民」が日本国内にすこしでも増えることを願うのは,教育者として大きすぎる野望かもしれませんが。。
<Edited by Tanaka>
学術変革(B)
プレッシオ脳神経科学の創生
- webサイトはこちら。
“Life is Strange and Beautiful”
柚木沙弥郎