一人で書く必要などない

Science誌には”Working Life”というコーナーがあり,研究活動に携わるさまざまな人からの声が寄せられるのでちょくちょく読んでいる.『アカデミック・ライティングの執筆は暗礁に乗り上げていた——他の大学院生たちと勉強会をするまでは』(doi: 10.1126/science.zyahh65)という投稿が目を引いたので,簡単に要約してみる.

冬の夜,真っ白なWord画面.締め切りが迫っている.

著者は完全に行き詰まっていた.

みずからの完璧主義が災いして常に先延ばしとなり,締め切り直前になって慌てる…完全な悪循環.しかし同じ境遇の友人と週一回の勉強会をすることになり,ついに書き始めるきっかけをつかむ——という内容のエッセイだ.

勉強会のメリットは,まず友人と一緒に作業することで互いに責任感が生じ,ついついスマホを手に取ってしまう自分を抑え込むことができたことだ.そして, 90分のセッションのうち,最初の5分で小さな目標を設定する.これがかなり効果的だったようだ.「段落を1つ書く」「図のレジェンドを書く」「難しい段落のつなぎを処理する」など,小さな成功を積み重ねることで自信が生まれ,執筆にも勢いがついた.その結果,締め切り前にメンターからのフィードバックを得る余裕ができるなど,生産性と執筆環境が劇的に改善した.

こうした自身の経験を広めるべく,著者らは博士課程学生を対象に勉強会(ピア・コワーキングセッション)を開催するようになる.たんに一緒に作業するだけでなく,自分たちの「目標設定・集中執筆・振り返り」システムを組み込んだのだ.静かなセミナー室には,コーヒーとちょっとしたお菓子も用意しておいた.部屋にはときに重苦しい空気が漂ったりすることもあったが,参加者が悩みや進捗を共有することで執筆への孤独感や恐怖心が解消され,互いの存在が励みになったようだ.こうした責任感,仲間意識,そして共通の目的意識が,執筆のハードルを下げてくれる

最後に著者は,「勉強会を組織することで,この状況は変えられる.なぜなら,誰も一人で書く必要などないからだ」と説く.

今でこそ日本の大学でもアカデミック・ライティングの授業があったりするが,それでも実験やデータ解析など他の研究活動と比べると,「書く」という行為については,あまり教育として重点が置かれていない印象だ(どうやら,それはアメリカでも同様らしい).解決策のひとつとして,この「ピア・コワーキングセッション」は有効かもしれない.